事業理解と自治体法務

こんにちは。まっちゃです。

 

先日、次のスペースが開催されました。

諸事情により前半を聴くことができなかったのですが、当該スペースを受けて(私の知る限り)いくつかの素晴らしいエントリが投稿されました。

 

さゆりさん(@sayurishsd

なぜ事業理解に対してムキになるのか|Sayurishsd|note

事業理解を深めるために、皆さんどうなさってますか|Sayurishsd|note

 

おもち先生(@omochihoumu

「法務と事業理解の話」|おもち|note

 

dtk先生(@dtk1970

事業を理解する、とは - dtk's blog(71B) (hatenablog.com)

 

ちくわ先生(@gigakame

【法務】一法務担当者の私が事業理解と法務相談について考えること - ホップ・ステップ・法務! (hatenablog.com)

 

いずれも良記事ですので、企業法務における事業理解(の重要性や視点)にご興味ある方は、ぜひご覧ください。

 

わたしの理解では、事業理解を深めていくことで、事業部との信頼が増していき、組織としての、また、法務自体のパフォーマンスも向上する、ということがコアの部分かと思います。浅い理解かもしれません。

 

さて、餅は餅屋ということで、私は自治体法務のことを少しお話しします。

 

自治体法務においては、ここでいう「事業」を、広く・狭く両方の意味で解することが重要です。通常は、政策目的とそれを実現するための手段としての事業ないし施策の関係です。もちろん、目的(行政目的)と事業(企業法務におけるそれ)はパラレルではないので、一番留意すべきところはこの点と思っています。

 

というのも、企業法務ないし企業活動においては利潤追求が重要であるところ、自治体法務ないし行政活動においては公益の増進・権利義務の擁護が重要です。両者に共通する点としては、当然と言えば当然ですが、活動に際して、当該活動に係る法的リスクを低減させるという点があげられるでしょう。

 

自治体法務、自治体における法規担当の狭義の業務であり、また、コア業務は例規とうに係る規程整備です。例えば、個人情報保護法の改正により、地方公共団体保有する個人情報に係る開示請求等の根拠は、令和5年4月1日から、各団体が整備している条例から、同法となります。これに際して、各団体においては、現在、既存条例の廃止及び法施行条例等の整備を行った(行っているところ)です。

 

個人情報保護法について、データの利活用もその目的とするところ、その利活用の主体は行政というよりも民間事業者を想定していると思われます。ここでいう事業は、団体における個人情報の保護を万全にすることであり、対国民・市民との関係では、法の規定を踏まえ、必要な範囲でそのプライバシーの保護・知る権利に資するように、開示すべき部分を開示し、そうでないものを開示しないという事務・行政を行うことが重要です。

 

また、こちらは情報公開に係るものですが、国民・市民にとって、公文書は統治主体に保存されている財産です。意思決定を知るための財産です。なぜ、どのように、いつ、何が決定されたのか、文書として保存し、管理し、及び整理しておくこともまた、とても重要です。これらは、国民・市民の権利擁護につながります。(情報公開も、いつかは法定されるのでしょうか…?)

 

一方、個人情報保護・情報公開のようなものと異なり、より直接にハード・ソフト面から、目に見える公益の増進を目的とする施策・事業も展開されます。わかりやすいものとして、黒澤明監督の「生きる」を例に引くと、とある地方の役人が、地元住民の要望を踏まえて、公園を設置しようとするわけです。公園の設置により、子どもの遊び場ができ、子ども同士が交流できます。また、路上で遊んでいれば、交通事故のリスクもありますので、これも低減させることができるかもしれません。最近であれば、企業誘致やスタートアップ企業の誘致なども、ここでいう事業に近いかも知れません。

 

話が長くなりましたが、事業理解の話に戻ります。

政策目的のために事業・施策を実施するわけですが、当然、法規担当者ではなく、当該施策を所管する部署があります。市民、政治家、首長からの要望を踏まえ、担当課は政策を立案し、実行します。また、法定受託事務など、一定の定められたルールに従って粛々と行うべき事務もあります。まずもって、それは、当該団体における独自施策なのか、法定のものであるのか、これを区別すべきでしょう。法規制があるものであっても、いわゆる上乗せ・横出し規制というものがあります。これらに係る議論する段において、これらが独自施策であることを理解しなければ、円滑な議論はなされないでしょう。

 

分かりやすさのために、独自施策に限って、話を進めていきます。

これについても、二つの可能性があります。現になされている施策かこれからなそうとしている・立案しようとしている施策なのか、です。通常、事業理解というときは前者になります。分けて考えます。

 

実行中の施策について、注目すべき点の一部は、先に述べたとおりです。法規担当者は、これについて、どのような点に注意して担当課と相対すべきか。それなりに詰められた施策であれば、その行政目的や事業展開については、一定詰められています。また、行政活動については、根拠が求められます(法律による行政の原理)。まずもって確認すべきは、根拠規定です。法?条例?国の通知?総合計画?まずはこれを確認しましょう。また、思いこまず、再度、条文を読み直しましょう。担当者が条文を読まず、該当規定の解釈を行うことで、当該施策に係る懸念点が払拭されることもあります。

 

次に、相談者の意図を確認しましょう。相談中に必ず確認しなければならないのは、相談者が何をしたいのか、です。あるいは、なぜ法規担当者に相談しに来たのか。例えば施策の実践中に想定外の事態が起こったのか、施策の制度体系に修正を加えようとしているのか、新任の方が施策の矛盾点を見つけてこれでいいのか確認したり。また、外在的には、誰の指示で、何を確認しようとしているのかなど、早期に確認しておくことで、ボタンの掛け違いも防げます。後者については、担当者をメッセンジャーに仕立て上げることも重要です。

 

後者の問題に絞ります。

誰が確認させているのか?部局長が何らかの指示を出して、それを聞いた所属長が、担当者に確認させているのか、担当係長なのかどうかなど。いずれにせよ、担当者自身が事業を理解していても、その相談内容を理解していない時があります。また、担当者自身が事業をよく理解していないこともしばしばあります。担当者の説明を鵜呑みにしないことは、上記のエントリでも触れられています。この点、後述します。

 

誰が何を確認したがっているのか、例えば「部長がこの件は法規担当者に聞いてこいと言ってきたので…」など、相談者が言うことがあります。この点、素直に答えない相談者には、相談を打ち切ってもよいと、個人的には思っています。開示されている情報が全てではないのであれば、そのおそれがあるなら、法規担当としては回答しかねると、言い切っていいでしょう。それくらい、重要な論点と考えます。

 

部長は何を懸念しているのでしょうか?ことあるごとに、弁護士や法規担当に確認したいという属性の方もいます。この場合、法規担当協議済み(回答はしてない。)というケースも往々に発生する可能性もあります。一方、言語化はできないけれど、何かおかしい気がする。法規担当ならそれを理解して、指摘し、改善をしてくれるだろうと期待している部長もいるでしょう。いずれにせよ、相談者の奥にいる本当の相談者を意識して言葉を紡ぐことも重要です。

 

先ほどの論点に戻ります。

相談者の開示した情報だけを鵜呑みにしない。例えば相談者の示す根拠規定が改正前のものかもしれません。一部分の抜粋かもしれません。何らかの意図をもって、情報を全部開示しないこともあります。ゆえに、法規担当者は、ヒアリング等において、自ら論点を抽出し、論点ごとに議論を組み立てなおし、それを相談者に示した上で、必要な情報を求めるべきでしょう。あるいは、論点を示す前に、まずは情報を開示することを求めてもよいでしょう。並行して、国などの通知通達等、法令・判例、逐条解説などを用いて、自ら裏どりをしていきます。この作業を厭うべきではないでしょう。いわゆる、リーガルリサーチですが、法解釈にとどまらず、事実レベルであっても、確認できる範囲で、独自に調査すべきです。相談者の意図にかかわらず、間違った情報が混入する可能性もあります。もちろん、登記情報などは相談者にその入手を依頼してよいでしょう。

 

新規施策について述べます。

新規案件について、ベテラン職員であれば、ある目的を達成するためには、このような施策が有効だろうと、直感的に立案できることもあります。このような相談を受けたとき、アイディアを法的な側面から固めていく支援を行うことが多いでしょう。全体の枠組みさえ組み立てられれば、流れていくでしょう。また、部分的に、有効と思われる方法が採用できるかの相談もあり得ます。スポット的に関わることもあります。例えば補助金の申請について、なんとか書類の往復回数を減らすために、事業の内容に照らしてですが、補助事業を実施した後に申請兼請求書をもらうことなどが考えられます。この場合、補助事業の実施後でよいのか、検討することになります。

 

一方、施策目的とその手段としての施策がうまく連関していないこともあります。政治的な壁や政治を踏まえた指示があるのは常ですが、まずは合理的な考えをもって、枠組みをもって、限界を示しておくことも重要です。結論ありきで担当課は突っ走ります。それでも、というのが法規担当の仕事です。落としどころを見極めつつ、正論を早々に譲ってはいけません。エライ人に呼び出されて、詰められても、ひるんではいけません。敵対的か信頼関係が構築できているかにもよりますが、議論があるからこそ、よい施策になることも、ままあります。議論を恐れず、見下すことをせず、なぜ、そのような制度設計にしようとしているのか、冷静に観察し、判断しましょう。

 

最後に。

縷々述べたところですが、企業法務における「事業」と違って、自治体においては、施策の事務の担当をたった一人の職員が行うことも、少なくありません。そして、小規模のものや決まりきったことを事務手続にのせていくだけのものもあります。規制行政や福祉制度についても、関連分野のスキームと似ているものも多く、一つのことを知ると、類似法体系の行政法や業法についても理解が進むことも多いです。ただし、税ではこうだから、契約に係る債権債務も時効は5年であるはずだみたいな、知っていることしか知らない職員もいます。都度都度、法規担当者が体系を示すことも必要かもしれません、そこまで面倒見れませんというのが正直なところですが。説明責任と同じです。説明すること、説明をまとめておくことを厭わず、とりあえずは伝えましょう。その奥にいる人には、伝わることも少なくないです。

 

わたしとしては、事業を理解するために、それに関わっている人についても知ることが重要だと考えています。それは、内外にいる政治アクターとして整理されるでしょう。誰が、権力を握っているか、政治学的な観点からの分析も、政策分析とは別の視点として、重要です。

 

単に法解釈ができるだけでは、少なくとも新規施策を担当課と併走して作り上げていくことは難しいでしょう。法的な分析に加えて、政治的な分析、政策的な分析なども重要です。繰り返しになりますが、当該施策が、何を目的として、どのようなことを達成しようとしてるのか、その手段は何か?(補助金?規制?情報提供?など)子のフレームワークを常に意識をして、ヒアリングし、自らの言葉で論点を再構築することが重要です。

 

事業理解という言葉から、行政が実施する施策へと少し飛躍をして整理をしてみました。

自治体法務の一活動に過ぎませんが、参考になれば幸いです。

 

今後、自治体においては、人材確保に負ける(労働環境もよくなく、賃金もよくない)、更なる人員の減少(仕事は増え、人員は増えない)が予想されます。これに伴って、ベテラン職員も減り、一人の職員の業務量も増えます。事務処理のミス、単純なミスが増える可能性もあります。法規担当としては、施策の推進に当たり、施策実施段階における、各種リスクの低減のため、事務執行の面倒も見なければならないかもしれません。私の懸念です。

 

以上